新・しるもの日記(1) 友田とん

2020年3月30日〜4月5日

3月30日(月)

 仕事の途中で志村けんの訃報を聞く。哀しい。うまく言葉にできない。夜はカブとトマトのみそ汁。トマト入りのみそ汁はすこし酸味があっておいしいです。うまみが増すので翌日の方がもっとおいしい。夕食後に原稿を直す。あと少しというところまでやって打ち出して、一晩措く。

3月31日(火)

 日記にはその日のことを毎日きちんと書くものだと決めてしまうと、返って私の場合書けなくなってしまうかもしれない。飛び飛びでもいい。書く日にもせいぜい日々の汁ものだけを記す。余力があれば、その日読んだ本や、考えたことも書くというくらいのゆるい感じで行きたい。仕事を終えてから、SUNNY BOY BOOKSで『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)を買った。帰ってきてから、カブとカボチャのみそ汁。

 締め切りまで粘って直した原稿を方々に送ってから寝る。

4月1日(水)

 家で仕事を終えてから、冷蔵庫にとってあったコーヒーにミルクを入れて温かいミルクコーヒーを作る。夕方1時間は毎日他を忘れて本を読みたい。夜は肉を焼き、ナスとカボチャのみそ汁。

 夜遅くに雨が上がって、公園の方へ歩いていくと、通りに満開の桜があった。後ろの信号が変わるたびに、雨に濡れた花びらにその赤や青が写っていた。

4月2日(木)

 おととい、飛び飛びでもいいから日記を書いていくと書いたが、それでもいいんだなと吹っ切れたのは、昨春堀越孝一訳『パリの住人の日記』を偶然手にしたからだ。これは15世紀のパリの様子を知ることのできる貴重な文献のようだが、名もなき一住人のその日その日の日記とそこに添えられた長い注釈の文体や語りがなんともいえず心地よい。そして、冒頭の1405年から1410年までの間に記されている「日記」がわずかに13日。これは果たして日記なのか?と可笑しな気持ちを抑えきれなくなったのだが、私はこれでもう毎日必ず詳細を書くというルールで自分を縛らなくてもよいという気になったのだ。 今夜はカボチャとキャベツのみそ汁。甘めの味付けが好きなのですが、カボチャを入れると、みそ汁がどれも甘めになる。

4月3日(金)

 夜、矢部潤子『本を売る技術』(本の雑誌社)を読み終えた。いかに売り場を作り、本を売るか。品出しから平台の並べ方、棚整理、発注、返品まで実務的な本。ついプロの仕事に私たちが期待しがちなロマンはない。考えに裏付けられた実務を徹底する。だがむしろその実務に注ぎ込まれる情熱に感動さえ覚えた。いつ来ても何か新しいものがあると思ってもらえるような売り場を作るという姿勢は、私も代わりに読む人としてどうにかして実践したいと思った。

4月4日(土)

 出歩いていないのに疲れているのか、朝起きてもぼーっとしていて、本を読むともなく読む。いよいよ出歩けなくなってきて、作業のため自宅で過ごす。あまり集中できず本をちびちびと読んだり、領収書の入力をしたりしていたら、原稿を書き出す前に夕方になってしまった。

 食料の買い出しも必要なので、夕方、スーパーに行くついでに本屋さんにも立ち寄ってさっと本を見る。

今夜はキャベツと小松菜と豆腐のみそ汁。

4月5日(日)

 昼間は黙々と「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する 2」の調べ物をしながら原稿を書く。このタイミングで原稿を書いていると、いやもっと早くにこの部分を書いておくべきであったという気持ちが押し寄せてくる。いつ東京の街中を闊歩できる日が来るのだろうか。しぶとく続ける。それしか方法はない。

 取り扱っていただいている本屋さんも苦渋の決断で休業されるところもある。どうにかして事業が継続できるように応援したいと思う。一方、こういう時こその政府の支援の出番だろうとも思う。相互扶助を実現するプラットフォームとして政府があるのでは。

 夜は時々行くタイ料理屋さんでテイクアウトする。家で食べるタイ料理もまたいいもので、リラックスしているからかビールが進んだ。

 夜、領収書の入力が全部終わって、確定申告にも目処がついた。

著者紹介:友田とん(ともだ・とん)京都府生まれ。可笑しさで世界をすこしだけ拡げるひとり出版レーベル・代わりに読む人 代表。著書に『『百年の孤独』を代わりに読む』『パリのガイドブックで東京の町を闊歩する 1』(代わりに読む人)。